03.ワインを巡るポルトからドウロ川上流域の旅
ポルトガルの家庭には、「ヴィンディーマ」(Vindima)という慣わしがある。プライベートなブドウの収穫祭のことだ。庭で育てたブドウが8月に色付きはじめ、9月には収穫の頃合いとなり、自家製ワインを作る。各家庭のキッチンの棚には、特製のノンラベルワインが隠されているのだ。そしてヴィンディーマに合わせて親戚みんなで集まり、和気あいあいとワインを飲みながら楽しむ、日本のお盆とお花見を混ぜ合わせたようなファミリーイベントなのである。ポルトガルに暮らしていれば、そのうち招待状をもらうことがあるかもしれない。
ポルトには、ポルトの名を冠した「ポルトワイン」に代表されるように、ワイン造りの歴史と誇りがあり、ドウロ川上流域一帯、その伝統的な製法は世界遺産に指定されている。
ポルトから、ドウロ川に架かるドン・ルイス1世橋を通って対岸へ渡ると、そこはポルトガル人自慢の30以上のワイナリーがひしめき合うエリア、ヴィラ・ノヴァ・デ・ガイア(通称:ガイア)。大きな倉庫や工場の屋根がつくるスカイライン、ブランドロゴの大きなクラシックパネル、岸壁に停泊するラベーロといわれる帆船、川沿いのゆったりとしたレストランなど、ポルトを特徴づける美しい景観のひとつだ。夕日の頃、川縁のブランドロゴやラベーロが赤く染まり、奥まった街区の影の中にワインバーの明かりが灯る。
ポルトから、ドウロ川に架かるドン・ルイス1世橋を通って対岸へ渡ると、そこはポルトガル人自慢の30以上のワイナリーがひしめき合うエリア、ヴィラ・ノヴァ・デ・ガイア(通称:ガイア)。大きな倉庫や工場の屋根がつくるスカイライン、ブランドロゴの大きなクラシックパネル、岸壁に停泊するラベーロといわれる帆船、川沿いのゆったりとしたレストランなど、ポルトを特徴づける美しい景観のひとつだ。夕日の頃、川縁のブランドロゴやラベーロが赤く染まり、奥まった街区の影の中にワインバーの明かりが灯る。
この、ドウロ川に浮かぶラベーロは、かつてドウロ川上流域とガイアの間を、ワイン樽を載せて行き来するのに使われた帆船だ。ドウロ川上流で育てられたブドウは、9月頃に手摘みで収穫され、機械で絞って樽詰めをされる。その後、ガイアに運ばれ、熟成と瓶詰めが行われる。20世紀中頃から、その運搬は鉄道やトラックにとって替わられたため、現在のラベーロは、一連のワイン造りのシンボルとしてポルトの景観づくりに一役買っている。
そして、ドウロ川上流域は、ワインに最適な環境が備わっている。年間を通して降水量が適量であり、特に開花から収穫まで(4月~9月)の期間に晴天が多く、傾斜地であることも手伝って日照時間を長く確保できるほか、一日の寒暖の差が激しいといった気候や地形条件が、ブドウの成熟や糖度の高さに良い影響を与えている。
ポルトガルのワインが発展する契機としては、18世紀初頭、ポルトガルとイギリスの間で締結された通商条約メシューエン条約(Methuen Treaty)によって、イギリスからは毛織物が、ポルトガルからはワインが、安価な関税での輸出入が許可されることとなった。イギリスは、フランスとの戦争によってフランスからのワインの輸入ルートが絶たれていたため大いに歓迎し、それを機に甘く香り高いポルトワインがイギリス人の味覚に触れ、高く評価されて普及した。欧州が工業化に沸く時代に、この条約が起因してポルトガルの手工業の発展が遅れたとされているが、その代わりに、ワインの生産が安定し今日まで成長を続けた結果、高品質なワイン生産国としての地位を確立しているのだ。
ところで、日本人にとってもポルトガルのワインは思い出が深い。
16世紀中頃、種子島へポルトガル商人が漂着したことが西洋人の日本への最初の上陸とされ、様々な言葉や鉄砲を初めとする驚異的な品物を日本にもたらしたが、「珍酡(ちんだ)」と呼ばれたポルトガルの赤いぶどう酒もまた日本人が初めて口にしたワインである。
16世紀中頃、種子島へポルトガル商人が漂着したことが西洋人の日本への最初の上陸とされ、様々な言葉や鉄砲を初めとする驚異的な品物を日本にもたらしたが、「珍酡(ちんだ)」と呼ばれたポルトガルの赤いぶどう酒もまた日本人が初めて口にしたワインである。
さて、美味しいワインが安く簡単に手に入るポルトガルは、ワイン好きにとってはこれ以上ない生活環境と言えよう。ポルトのダウンタウンにもワインショップもがあちこちにあり、スーパーでも美味しいワインを安く手に入れることもできる。ワインバルも豊富で、レストランではグラスあるいはデキャンタで1€というのも珍しくない。
その上で、せっかくポルトに暮らすからには、自分の足でワイナリーを訪れて、より知識や体験を深め楽しみたいものだ。
ガイアのワイナリーツアーは、年中いつでもウェルカムな雰囲気で、散歩がてらに飛び込みでも参加しやすい。
ガイアのワイナリーツアーは、年中いつでもウェルカムな雰囲気で、散歩がてらに飛び込みでも参加しやすい。
夏になりシーズンが到来すると、もう少し時間を作って、電車でドウロ川上流域のワイナリーに足を延ばすのも良い。ポルト近郊のパレーデス(Paredes)、周辺にたくさんの荘園が広がるレグア(Régua)、さらに上流域には、かつて帆船ラベーロの港があったピニャオンがある。ピニャオン(Pinhão)の川沿いにはワイン倉庫を改装したホテルが佇み、また、ピニャオン駅は最も美しい駅の一つとして知られている。
ドウロ川の電車の旅は、ポルトのサン・ベント駅で乗り込んだときから始まっている。しばらくは内陸を走るのだが、途中から視界が開け、ドウロ川の対岸に広がる美しいブドウ畑が目に飛び込んでくると、そのままレグアやピニャオンに向けてドウロ川沿いを走っていく。ブドウ畑は、まるで巨人が指先で砂絵を描くように、雄大な斜面にどこまでもすっと伸びていて、ブドウの葉は年中通して様々な表情を見せてくれる。何といっても、電車に乗る前にワインを買って、ワインを味わいながらの車窓の旅というのもまた格別である。
(参考)
電車が比較的安価な手段だが、一方で、船で主要なワイン産地に停泊し、1~2日かけてドウロ川を往復する優雅な旅もひと味違う。夏のシーズン中には、レグアからピニャオンのさらに先のトゥアまで蒸気機関車も走っている。
パレーデス(Paredes)…ポルトから電車で1時間程度
レグア(Régua)…ポルトから電車で2時間半程度
ピニャオン(Pinhão)…レグアから電車で30分程度
電車が比較的安価な手段だが、一方で、船で主要なワイン産地に停泊し、1~2日かけてドウロ川を往復する優雅な旅もひと味違う。夏のシーズン中には、レグアからピニャオンのさらに先のトゥアまで蒸気機関車も走っている。
パレーデス(Paredes)…ポルトから電車で1時間程度
レグア(Régua)…ポルトから電車で2時間半程度
ピニャオン(Pinhão)…レグアから電車で30分程度